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  • MT4とMT5の違い|EAを使うならどちらが最適か?

    「EAを始めたいけれど、MT4とMT5のどちらが良いのか分からない」。多くの人が最初に抱える悩みです。本記事では、EA運用に直結する項目に絞って両者を比較し、あなたの戦略と環境に最も合う選択を明確にします。仕組みの違いだけでなく、実運用で効く判断軸を丁寧に解説します。


    MT4とMT5の基本的な位置づけ

    MT4(MetaTrader 4)は長年にわたり世界中の個人トレーダーに使われてきた定番プラットフォームです。対応ブローカーやEAの資産が豊富で、情報も多いのが特徴です。
    一方、MT5(MetaTrader 5)は後継として設計され、64bitネイティブ対応、マルチスレッド最適化、より精密なストラテジーテスター、追加の時間足、板情報(Depth of Market)など、機能面が大幅に強化されています。

    両者を一言でまとめるなら、「資産と互換性のMT4」「機能と将来性のMT5」。EA運用ではこの二軸のバランスをどう取るかが選択の核心です。


    EA視点で最も重要な違い

    1) 注文処理とポジション管理(ヘッジング/ネッティング)

    MT4はヘッジング前提です。同一通貨ペアに買いと売りのポジションを同時保有できます。スキャルピングやグリッド、マーチン型のEAはこの前提で設計されることが多いです。
    MT5はヘッジングネッティングを口座タイプで切り替え可能です。ネッティングは同一銘柄のポジションを1本に集約します。先物や株式のような銘柄でも扱いやすく、証拠金効率を重視する設計に合います。EAがポジションをどう積み上げ、どう解消するか。ここは互換性の落とし穴になりやすい部分です。

    2) 言語仕様(MQL4 vs MQL5)

    EAはMT4ならMQL4、MT5ならMQL5で書かれます。文法は似ていますが、MQL5はイベント駆動やオブジェクト指向がより強く、速度と柔軟性に優れます。板情報やティックレベルの制御など、低レイヤのアクセスが便利です。
    既存のMQL4資産を持っている場合、完全互換ではない点に注意です。単純なロジックなら移植は容易ですが、注文周りやカスタム指標連携、複数ポジション制御などは書き直しが必要なことがあります。

    3) ストラテジーテスター(バックテスト/最適化)

    MT5のテスターはマルチスレッド分散最適化に対応し、実ティックやティック生成品質の指定、マルチカレンシーの同時テストまで可能です。トレンド追随と逆張りを併用するような総合戦略や、相関を使ったアービトラージ検証などで本領を発揮します。
    MT4のテスターでも実務は可能ですが、速度、ティック精度、パラメータ探索の並列性で差が出ます。EAの改善を高速で回すならMT5の優位は明確です。

    4) 速度と安定性、資源利用

    MT5は64bit最適化とマルチスレッドにより、計算の重い指標や遺伝的アルゴリズムによる最適化を短時間で回せます。VPS上でもCPU・メモリの使い方が洗練されており、複数EAの同時稼働で差が出やすいです。
    MT4は軽快ですが、長期のティック連打や大量ポジション管理で負荷が高まると、ログ肥大や描画遅延が発生しやすい傾向があります。

    5) 時間足・指標・板情報

    MT5は標準の時間足が豊富で、M2, M3, M10などの中間足を扱いやすい点が便利です。板情報や約定履歴の扱いも拡張され、板厚やスプレッドの厚みを利用する高頻度寄りの設計にも向きます。MT4でもカスタムで補えますが、素の対応はMT5が上です。


    バックテストとフォワードテストの精度をどう見るか

    EAは「過去に勝てた」だけでは不十分です。テスト品質再現性が重要です。

    1. データ品質
      ティックの再現精度、スプレッドの扱い、ロールオーバー、約定方式。MT5は実ティックやブローカー提供のヒストリに近い検証がしやすく、ギャップやスリッページを条件に含めたテストが回しやすいです。
    2. 最適化の落とし穴(オーバーフィット)
      パラメータを細かくチューニングすると過去相場に合わせ過ぎます。MT5は最適化が速い分、過学習のリスクも高まります。外部検証としてウォークフォワード分析アウトオブサンプル期間の設置が有効です。
    3. フォワードテスト
      デモや超小ロットでの実運用検証は不可欠です。MT4/MT5どちらでも、同一条件で1〜3か月の観察期間を置き、EAの癖(ドローダウンの出方、連敗時のリカバリー、約定品質のブローカー差)を把握します。

    VPS・運用インフラの観点

    EAは24時間の安定稼働が命です。
    MT5は高負荷時でも安定しやすく、複数EA×複数通貨ペアの同時運用で強みが出ます。CPUコア数の多いVPSにすると最適化も同環境で回せます。
    MT4は軽さが武器です。EA数が少ない、ティック処理が軽い、という条件ならローコストVPSで十分に戦えます。
    いずれの場合も、自動再起動・監視ツール・ログローテーションを仕込んでおくと、長期安定に効きます。


    互換性・資産・ブローカー対応

    • EA資産:既にMQL4で動くEA群を持っているなら、MT4継続の合理性は高いです。移植コストが成果に見合うかを試算しましょう。
    • インディケータ資産:自作や購入のカスタム指標が多いほど、乗り換えコストは跳ね上がります。
    • ブローカー対応:MT5の約定仕様やシンボル設定は豊富です。スプレッド、約定スピード、両建て可否、口座のヘッジング/ネッティングの種別は、EAのロジックと矛盾がないか要確認です。
    • マーケット(配布エコシステム):歴史の長いMT4はEA・インジの在庫が膨大です。MT5は質の高い新作が増えていますが、ニッチ戦略の選択肢ではまだMT4に軍配が上がるケースもあります。

    目的別・戦略別の選び方ガイド

    スキャルピング系(超短期・約定品質重視)

    • おすすめ:MT5(板情報・実ティック・最適化速度)。
    • 例外:手持ちのMT4スキャルが既に安定利益なら、そのまま延命が妥当。ブローカー変更よりも約定環境の継続性を優先。

    グリッド/マーチン/ナンピン系(ポジション多段)

    • おすすめ:MT4(ヘッジング前提のEA資産が豊富)。
    • MT5でやる場合:口座タイプをヘッジングにし、ポジション制御をMQL5に合わせて実装。証拠金と上限ポジション数の監視を強化。

    マルチカレンシー戦略(相関・分散投資)

    • おすすめ:MT5(マルチシンボル同時テスト、分散最適化)。
    • 相関と逆相関の同時最適化、ポートフォリオの最大ドローダウン制御をテスター段階から設計に組み込めます。

    検証速度・改善サイクル最重視

    • おすすめ:MT5。
    • 週末の数時間で複数戦略を回し、良パラメータを抽出して月曜反映といった改善ループが現実的になります。

    既存資産を活かす・初期コストを抑える

    • おすすめ:MT4。
    • 互換性の壁で時間を失うより、稼げている仕組みの延命に集中。移行は新戦略でMT5を併走させ、段階的に移すのが安全です。

    実運用前のチェックリスト(補助的な要約)

    • バックテスト:十分な期間(少なくとも5年)と複数局面(トレンド/レンジ)
    • 最適化:アウトオブサンプルの設定、パラメータの粗密を比較
    • フォワード:デモ→極小ロット→通常ロットの三段階
    • 約定品質:VPSロケーション、ブローカーのレイテンシスリッページ
    • リスク:想定最大DD破綻ライン、複数EAの同時ドローダウン相関
    • 監視:自動再起動、ログ監視、アラート、レポート自動配信

    よくある失敗と対策

    失敗1:MT5に移したらパフォーマンスが崩れた

    原因:ポジション管理の前提がMT4ヘッジングで、MT5ネッティングに合っていない。
    対策:ヘッジング口座を選ぶ。ロット加算法、部分決済、トレーリングの実装をMQL5のイベント駆動に合わせて再設計。

    失敗2:バックテストは神、フォワードで沈む

    原因:パラメータの過学習。ティック品質とスプレッド固定の甘さ。
    対策可変スプレッドスリッページを含む条件で再検証。ウォークフォワードを標準手順化。

    失敗3:VPSコストが膨らみ、EA数も増やせない

    原因:単一コア性能の不足、メモリ節約設定不足、ログ肥大。
    対策:MT5でコア数の多いVPSへ。ログローテーション、不要インジ削除、チャート描画の最小化。


    まとめ:結論と行動提案

    結論

    • 既存EA資産の活用と互換性重視 → MT4
    • 検証速度・機能の拡張性・将来性重視 → MT5

    どちらが「絶対に優れている」わけではありません。あなたの戦略、保有資産、改善サイクル、ブローカー環境で最適解は変わります。迷ったら、MT4で現行の稼働系を維持しつつ、MT5で新戦略を開発・検証して併走する二刀流が安全です。段階的に成果の良い方へリソースを寄せていきましょう。

    次の一歩

    1. いまの戦略を「ヘッジング依存か」「ネッティングでも成立するか」で分類。
    2. 週末にMT5でバックテスト基盤を整備し、最適化→アウトサンプル検証→ミニロット運用のサイクルを開始。
    3. VPSのロケーションとコア数を見直し、検証と実運用の同居を設計。

    この順序ならリスクを抑えつつ、EA運用の精度と速度を同時に引き上げられます。あなたのポートフォリオに、最も合理的な形でMT4/MT5を組み込んでいきましょう。