タグ: ポートフォリオ

  • EAを複数同時に稼働させるとどうなる?実践検証

    「EAを複数同時に動かすと、成績は本当に安定するの?」——多くのトレーダーが抱く疑問です。単体EAが好調でも、相場が変われば急に崩れることがあります。本記事では、複数EAの同時運用を前提に、相関・資金管理・VPS・バックテスト設計までを体系的に解説。単体運用との違いを“実践検証に基づく設計思想”として提示します。


    検証設計と前提—何をもって「安定した」と言えるか

    複数EAの評価では、累積損益だけでなく「最大ドローダウン(DD)」「プロフィットファクター(PF)」「月次のブレ幅」を併せて見る必要があります。損益が右肩上がりでも、途中の落ち込みが深すぎれば運用は続きません。そこで本記事の検証設計は、①単体EAのベースラインと、②複数EAのポートフォリオを同じ条件で比較し、損益の滑らかさとDDの浅さを重視して評価する方針を採用しました。評価期間はレンジとトレンドの両局面を含む相場区間を選び、バックテストは可変スプレッド・手数料込み、フォワードは小ロットで挙動確認という二段構えを基本とします。

    また、運用インフラはVPS上にMT4/MT5を複数インスタンス展開し、同一口座での稼働を想定。ポジション識別にはMagic Numberを必ず分け、最大同時ポジション数と通貨別エクスポージャー上限を設定して、口座全体のリスクを見える化しました。これにより、「EAごとに勝っているのに口座は減る」といった典型的な落とし穴を避ける設計を徹底しています。


    複数同時運用の理屈—分散は“相関”が決める

    複数EA運用の核は、単純な本数増しではなく“相関の低いエッジの組み合わせ”です。似たロジックを通貨だけ替えて並べても、同じ日に同じ方向で負ければ分散効果は生まれません。理想は、時間軸・戦略・通貨の三軸で独立性を確保すること。例として、トレンドフォローのスイングEA(4H/日足)と、レンジ回帰のロンドン時間向けEA(5分足)、イベント回避フィルタ付きのブレイクEA(1H)を組み合わせると、収益源が分散しやすくなります。

    分散が有効かどうかは、EA同士の「損益曲線の同時沈み込み」をどれだけ減らせるかで判断します。月次の損益相関が低いペアは、ポートフォリオに入れる価値が高い候補です。相関が高くても、損益のタイミングがズレていれば許容可能な場合もありますが、その場合は口座全体の最大DDを基準にロット比率を調整し、リスクの偏りを抑えることが欠かせません。

    相関が低い組み合わせの見つけ方

    バックテスト期間を同一に揃え、月次損益の相関係数を算出して目安を立てます。-0.2〜+0.3程度に収まると分散効果が期待しやすい一方、+0.6を超えるなら同時沈み込みの可能性が高く、組み合わせかロット配分を見直す余地があります。加えて、曜日別・時間帯別の損益ヒートマップを作成し、勝ち負けの偏りが重なりにくいEAを優先するのが実務的です。

    リスク寄与の均等化(リスクパリティ)の考え方

    単純に等ロットで並べると、ボラの大きいEAほど口座損益への影響が肥大化します。各EAの過去DDや日次損益の標準偏差を基準にロットをスケーリングし、口座へのリスク寄与を均等に近づけると、資金曲線が滑らかになります。リスクを揃えた上で、成績の良いEAに徐々に配分を寄せる“段階的最適化”を行うと、過剰最適化の副作用を抑えつつ成長を狙えます。


    実践検証で見えた差—単体運用 vs 複数運用

    単体運用の代表としてトレンド系スイングEAをベースラインに置くと、PFは1.25前後、最大DDは口座の約12%程度という堅実な姿に落ち着きがちです。ここに、時間帯特化の短期EAと、レンジ回帰EAを相関を見ながら追加したポートフォリオでは、PFが1.3台に小幅上昇しつつ、最大DDが一桁台に縮小するケースが目立ちます。理由は明快で、トレンドが出ない期間に短期やレンジが穴を埋め、突発イベント時にはニュースフィルタで稼働を落とすなど、損益の波を相互に打ち消す作用が働くからです。

    一方で、複数運用が常に優位とは限りません。スプレッド拡大の時間帯に短期EAが同時エントリーしてコストが嵩み、期待値を目減りさせる場面もあります。また、金利やテーマ相場で“相関の一時的上昇”が起きると、複数EAが同方向に沈み込むことがあり得ます。したがって、複数運用のメリットは“設計が正しいときに最大化される”という前提条件つきで捉えるべきです。


    デメリットと落とし穴—複数運用で増える新しいリスク

    複数EAは「勝ち筋の多様化」と引き換えに、運用オペレーションの複雑さを増やします。まず、同一通貨・同方向のポジションが重なり、証拠金消費が急増する“エクスポージャー過多”が典型的です。さらに、約定競合でスリッページが拡大し、短期EAのエッジを削る事態も発生します。Magic Numberを分けても、口座全体の損失は待ってくれません。

    また、バックテストでは見えにくい“同時多発の損益イベント”が実運用では起こります。たとえば要人発言で多通貨が一斉に跳ねると、普段は独立しているEA同士が同時に損失を出し、結果的にDDが想定超過となることがあります。これを防ぐには、通貨別・口座全体の同時ポジション上限、日次・週次の損失制限、重要指標カレンダー連動の停止ルールを“口座レベル”で実装する必要があります。


    設計と手順—口座全体を主役にした資金管理

    複数EA運用の要は「EAではなく口座を管理する」発想にあります。まず、口座全体の最大DD許容(例:20%)を先に決め、各EAの想定DDからロットを逆算します。同時に、通貨別エクスポージャー上限(例:USD関連は合計で残高×n%まで)と、最大同時ポジション数を設定し、過剰な重複を機械的に抑制します。

    次に、エクイティベースのストップ(一定割合の損失で全EA停止)と、日次・週次の冷却期間をルール化。これにより“止める勇気”をシステムに委ねられます。複利運用は月次または四半期ごとにロットを見直し、直近の変動が大きいEAは増額を見送る保守的な手順を採用します。最後に、Magic Numberの体系化、ログ保存、約定統計の定期レビューを運用プロセスに組み込み、改善のサイクルを回せるようにしておきます。

    MT4/MT5での実装ポイント

    プラットフォームはインスタンスを分け、クラッシュ時の巻き添えを防ぎます。ニュースフィルタはEA側か、外部スイッチで一括制御できる仕組みを用意。スプレッド上限、時間帯フィルタ、最大ポジションの各制約はEAごとに設定しつつ、口座全体の監視スクリプト(簡易でも可)で二重に網をかける設計が実務的です。


    バックテスト設計—“勝てる理由”の再現性を担保する

    複数EAの同時検証では、個別に強い曲線を集めるだけでは不十分です。共通期間・共通コスト条件で横並び比較し、月次損益の相関、DDの同時化、相場レジーム(低金利期・利上げ期・危機局面)を跨いだロバスト性を評価します。スキャル系はティック品質と可変スプレッド、スリッページ仮定が重要で、スイング系は長期データと週末ギャップの扱いがカギです。

    過剰最適化を避けるには、分割サンプル(インサンプル/アウトオブサンプル)、ウォークフォワード、パラメータ±10%の揺らぎテストを標準装備に。ポートフォリオ全体でも同様のストレスをかけ、1本が崩れても全体のエッジが残る構造かを確かめます。最終的には小ロットのフォワードで実地確認し、バックテストとの乖離が継続的に小さいEAだけを本番配備するのが王道です。


    VPSとブローカー—“速さ”より“途切れない”を優先

    複数EAはプロセス数とI/Oが増えるため、VPSのCPU・メモリ・ディスクのいずれも余裕を見て選びます。目安として、MT4/MT5インスタンス1つに対しメモリ1〜1.5GB、EA本数が多いなら2GB/インスタンスを確保。ディスクはSSDで、ログのローテーション設定を忘れずに。レイテンシは重要ですが、スイング主体なら“安定稼働率”を最優先にし、冗長化(自動再起動・監視)を整える方が損益に効きます。

    ブローカー選定は、手数料・スプレッド・約定品質を通貨別に実測して決めます。複数EAで取引が重なる口座では、ロット上限・同時ポジション規制や、指標時の執行ポリシーの違いが結果を左右します。スキャル系を含むなら、ブローカーとVPSの地理的近接(NY/LDN)が有利に働きますが、安定を最優先するフェーズでは、障害時のサポート品質と約款の透明性をより重視すべきです。


    ケーススタディ—“バランス三本柱”のポートフォリオ例

    たとえば、①トレンドフォローのスイングEA(USD/JPY・4H/日足)、②レンジ回帰EA(EUR/USD・M15)、③時間帯特化の短期ブレイクEA(ロンドン時間・GBP/USD・M5)の三本柱を想定します。ロットはリスク寄与を揃えるため、日次損益の標準偏差でスケーリングし、通貨別の総エクスポージャー上限を設定。重要指標時は③のみ停止、週末は全EAクローズ、という“停止の設計”まで含めて運用します。

    この構成では、トレンド低迷時に②が下支えし、ニュースで荒れる局面は③の稼働を絞ることで口座全体のDDを抑制する狙いが機能します。月次の損益カーブは単体EAよりも滑らかになりやすく、PFは大きく跳ねないものの、DD縮小と回復速度の向上が“続けられる運用”につながります。重要なのは、勝率ではなく「資金曲線の生存性」を最優先に据える姿勢です。


    まとめ|複数EAは“本数勝負”ではなく“設計勝負”

    複数EA同時運用は、正しく設計すればDDを浅くし、資金曲線を滑らかにできる強力な手段です。ただし、相関の高い組み合わせや口座レベルの管理不備は、むしろ損失を増幅させます。結論として、①相関の低いエッジを時間軸・通貨・戦略で組み合わせ、②口座全体のDD許容を起点にロットを逆算し、③ニュース・日次/週次損失・同時ポジションの停止ルールを“先に”決める。この三点を満たせば、複数運用のメリットは初めて現実の損益に乗ってきます。

    行動提案として、まずは既存EAの月次損益から相関を算出し、リスク寄与が偏っているEAのロットを縮小。次に、可変スプレッド・手数料込みの共通条件でバックテストを揃え、小ロットのフォワードで二週間検証。最終段階でVPSの監視と再起動を自動化し、停止ルールを口座レベルで実装してください。複数EAは“足し算”ではありません。設計と運用プロセスの“質”が、長く勝ち続けるための最大の差になります。