EAのバックテスト方法|勝てるEAを見極めるための手順

「EAを購入したい/自作したいけれど、本当に勝てるのか自信がない」。多くの初心者が最初にぶつかる壁は、正しいバックテストのやり方が曖昧なことです。本記事は、MT4/MT5での設定からデータ精度、最適化とその副作用、ロバスト性検証、フォワードテスト、実運用までを一連の流れで解説します。読了後は、根拠のあるテスト設計で「使えるEA」と「危険なEA」を見極められるようになります。


バックテストの目的と考え方:何を証明したいのか

バックテストは「過去に勝てたか」を眺める作業ではありません。戦略仮説(エッジ)が再現性を持つかを統計的に検証する工程です。

  • 仮説の定義:例)「ロンドン時間のブレイクは短期追随にエッジがある」「レンジ回帰の逆張りはボラ縮小期に優位」など。
  • 検証の対象:戦略の一貫性(どの局面で勝ち/負けるか)、リスク特性(最大ドローダウン、連敗の出方)、パラメータの安定性(少し揺らしても崩れないか)。
  • フォワードでの再現:アウトオブサンプルや実口座で再現するかが最終判断基準です。

この視点を持てば、グラフの美しさに惑わされず、再現可能性制御可能なリスクに意識が向きます。


事前準備:プラットフォーム・データ・口座仕様

MT4とMT5の違い(バックテスト観点)

  • MT4:資産(EA・情報)が豊富。テスターは単一スレッド中心で、精度や速度でMT5に劣る場面もある。
  • MT5:64bit対応・マルチスレッド・分散最適化・実ティック。マルチカレンシー検証や精緻な条件設定が可能。
    どちらでも実務はできますが、速度と実装の幅はMT5が優位です。

データ品質と期間の選び方

  • ティック精度:可能なら実ティック(MT5)や高品質の1分足からティック生成。
  • 期間:5年以上を基本に、トレンド・レンジ・高ボラ・低ボラをすべて含む
  • タイムゾーンとDST:ブローカーのGMTオフセットと夏時間を確認。EAの時間判定ロジックに影響します。
  • 手数料・スワップ:取引コストは必ず反映。不計上のバックテストは絵に描いた餅です。
  • スプレッド:固定だけでなく、可変スプレッドや広がりを想定した条件でも再検証。

口座仕様(ヘッジング/ネッティング)

  • MT4はヘッジング前提、MT5は口座タイプによる。EAロジック(グリッド、マーチン、部分決済)と口座仕様の整合を取ること。

MT4/MT5のストラテジーテスター設定:要点整理

  1. モデル/ティック:MT5は「実ティック」推奨。MT4はできるだけ精度高い生成方式で。
  2. スプレッド:平均スプレッドに加え、広がりを入れたケースも試験。
  3. 手数料(Commission):ブローカー仕様で設定。ラウンドターン課金ならその数値。
  4. スリッページ:固定値でも良いので保守的に入れる。
  5. 取引時間:ブローカーの休日・祝日・早閉め対応の癖。EAの取引時間フィルターがある場合は揃える。
  6. 証拠金・レバレッジ:現実の運用条件を再現。必要証拠金とStops Levelに注意。
  7. スワップ:通貨ごとに差異が大きい。スイング/ナンピン系では影響甚大。

これらをテンプレ化し、EAごとに再利用できるようにしておくと、検証のばらつきが減ります。


実践手順:勝てるEAを選別する8ステップ

ステップ1:戦略仮説の言語化

「どの時間帯に、何の現象を、どういうロジックで捉えるか」を短文で定義します。
例:「ロンドンFIX前後のボラ拡大でブレイク追随。ATRで損益比を管理。」

ステップ2:データ準備と基礎テスト

ヒストリを最新化し、ベースライン(デフォルト設定)で1本通し。グラフの形、勝敗の分布、連敗時の挙動を把握します。ここで致命的な欠陥(シグナルが極端に少ない、スプレッドが勝ちを食い尽くす等)が見えたら先へ進めません。

ステップ3:期間分割(IS/OOS)と検証設計

  • IS(インサンプル):最適化や調整に使う期間。
  • OOS(アウトオブサンプル):完全に未調整の検証期間。
  • WFO(ウォークフォワード最適化):ロール式で「最適化 → 直後のOOS検証」を繰り返す設計。現実の運用フローを模倣できます。

ステップ4:最適化(粗→密、単目的→多目的)

  • まず粗いグリッドで当たり領域を探し、次に細かく詰めます。
  • 目的関数はPF×ドローダウンの逆数や**CAGR/MDD(MARレシオ)**など、リスク調整後の利益を重視。
  • 単一の尖った最適点より、**周囲が平ら(台地型)**の領域を選びます。

ステップ5:ロバスト性検証(壊れにくさの確認)

  • パラメータゆさぶり:±10〜20%の揺らしで成績が維持されるか。
  • データ汚し:スプレッド拡大、スリッページ付与、ティック抜けを意図的に入れる。
  • モンテカルロ:トレード順序のシャッフルやスリッページ乱数で分布を観察。右裾(悪いケース)を見て許容できるか判断。
  • 時間帯・曜日除去:一部の時間帯を無効化しても崩れないか。

ステップ6:OOS/WFOでの現実確認

ISで調整した後、触っていないデータで再現するかを確認します。

  • OOSで大崩れ → 過学習の疑い。
  • WFOの総合曲線が右肩上がりでDDが許容内なら、実運用候補。

ステップ7:ポートフォリオ視点

EA単体で完璧を目指すのではなく、相関の低いEA通貨・時間足分散合成DDを下げます。複数の小さなエッジを束ねる方が現実的に安定します。

ステップ8:ドキュメント化と再現性

テスト条件、データ期間、口座仕様、パラメータ、ビルド、勝率・PF・MDDなどを検証ノートに保存。将来の再検証や劣化検知のベースになります。


指標の読み方:数字を“運用判断”に落とす

  • PF(プロフィットファクター):1.3〜1.5でも、DDが浅く安定していれば実務で十分。
  • 勝率×損益比:勝率が低くても損益比>1.5なら成立し得る。逆に高勝率でも損益比<1だと不安定。
  • 最大ドローダウン(MDD):資金計画の軸。口座残高に対する割合で把握。
  • リカバリーファクター(総利益/MDD):DDからの回復力。
  • SQN/Sharpe/MAR:トレード数と分散を加味した品質評価。
  • トレード頻度:少な過ぎるEAは統計的にブレが大きい。最低でも数百トレードの検証母数が望ましい。

具体的な設計例:戦略タイプ別の注意点

スキャルピングEA

  • 実ティック/可変スプレッド/スリッページの再現が最重要。
  • ロンドン・NYの流動性ピークに限定し、指標時間帯は回避。
  • VPSロケーションとブローカーの約定品質で結果が激変するため、フォワードでブローカー横断の比較を。

トレンドフォローEA(H1〜H4)

  • 取引回数が少なく統計的にブレやすい。期間は最低5年。
  • 逆指値の追随ロジックがスリッページの影響を受け過ぎていないかをチェック。
  • トレーリング分割利確は、損益比を改善する一方で勝率が落ちる。総合でPF>1.3を目安に。

レンジ回帰/ナンピン・グリッド

  • Stops Level最大ポジション数が肝。ブローカー仕様に合わない設計は即崩壊。
  • スワップとロールオーバーコストが蓄積しやすい。長期OOSモンテカルロで破綻確率を評価。

フォワードテスト:実運用の“直前試験”

  • 段階的移行:デモ → 極小ロット(0.01など) → 標準ロット。
  • 期間:最低1か月(できれば3か月)。局面の変化を跨ぐ。
  • 監視:ログ(エキスパート/ジャーナル)、スリッページ、約定拒否。
  • 指標対応:雇用統計・政策金利などの高インパクト時は停止ルールを定義。
  • 乖離分析:バックテストとフォワードのPF・MDD乖離が一定範囲に収まるか。
    フォワードでの小さなズレは正常ですが、挙動の質(勝ち方・負け方)が変わっていないかを観察します。

実運用:VPS・監視・資金管理

  • VPS:ブローカーに近いロケーション、十分なコア数とメモリ、自動再起動+自動起動タスク
  • 監視:メール/プッシュ通知、プロセス監視、ログローテーション。
  • 資金管理:1トレード損失は口座の1〜2%を上限。複利はDD拡大局面で逓減ルールを用意。
  • 相関管理:複数EAの同時DDを避けるため、通貨・時間足・ロジックの分散。
  • 再最適化の頻度:月次や四半期など決まったサイクルで。頻繁すぎる調整は過学習の温床。

ありがちな落とし穴と回避策

  • 曲線当てはめ(過学習):最適化し過ぎ。→ OOS/WFO、モンテカルロ、台地型パラメータを重視。
  • コスト軽視:スプレッド・手数料・スワップ・スリッページをすべて入れる。
  • 口座・銘柄の取り違えEURUSD.m などの接尾辞、ヘッジング可否、Stops Level不一致。
  • 時間のズレ:GMT/DST不一致で時間帯ロジックが壊れる。
  • テスト母数不足:トレード数が少なすぎて偶然の勝ち。→ 期間延長・他通貨でのクロステスト。
  • 販売ページ鵜呑み:「月利XX%」は条件依存。自分の条件で再現できて初めて評価対象。

補助的チェックリスト(要約)

  • データ:期間5年以上、実ティック(または高品質生成)、可変スプレッド・手数料・スリッページ反映
  • 設計:IS/OOS分割、WFOで現実の運用手順を模倣
  • 最適化:粗→密、目的関数はリスク調整型、台地型を選択
  • ロバスト:パラメータゆさぶり、モンテカルロ、時間帯除去テスト
  • 指標:PF・MDD・勝率・損益比・リカバリー、母数の確保
  • フォワード:デモ→極小→標準、乖離と挙動の質を確認
  • 運用:VPS、監視、1〜2%ルール、相関分散、定期再最適化

まとめ:結論と行動提案

結論:バックテストの本質は、再現性のあるエッジを、許容可能なリスクで運用できるかの検証にあります。MT4/MT5の設定や最適化は手段に過ぎません。真価は、OOSやフォワードで同じ性質の勝ち方が続くかどうかに現れます。

次の一歩

  1. この記事の手順でテスト環境テンプレを作成(データ/口座仕様/テスター設定)。
  2. 1本のEAを対象に、IS/OOS→WFO→モンテカルロ→フォワードまで一気通貫で実施。
  3. 結果を検証ノートに記録し、再現可能なやり方を標準化。
    この流れを回せば、「見栄えの良い曲線」ではなく、壊れにくい運用に自然と近づきます。EAは魔法の箱ではありません。しかし、正しいバックテストは、あなたの時間と資金を守る最強の盾になります。

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